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鍼治療と人工受精(IUI)または体外受精(IVF)など高度生殖医療(ART)の併用について 

Harikyu and IVF

回答、解説:田中秀明

Ph.D. R.Ac. R.TCMP (カナダ、オンタリオ州)

筑波技術大学、鍼灸学科、客員研究員

The Pacific Wellness Institute、Clinical Director

更新:2016年12月

Q:  現在不妊クリニックへ通っていますが、鍼や漢方治療を受けてよいですか?

A: 通常は問題ありません。補完的療法として効果が期待されています。

解説:Pacific Wellness クリニックへは、人工受精(IUI)または体外受精(IVF)など高度生殖医療(ART) を受けておられる方が多数来院されております。

漢方薬は問題ないばあいも多いですが、一部生薬にはホルモン様作用が認められており、人工受精(IUI)または体外受精(IVF)時に投与されるホルモン剤との併用は懸念される場合があります。漢方薬を含めハーブ、サプリメント類を服用中の方は専門医の指示に従ってください。

鍼に関しては積極的な専門医が多く、併用により相乗効果が期待できます。Pacific Wellness へはIVF専門医からの紹介で数多くの方が鍼治療に来られています。ちなみに、これまでに何人もの産婦人科の医師やナースもPacific Wellnessへ来院されており、ご自身の婦人科疾患の改善のため鍼治療を受けられています。

 

Q: IVFを予定しているのですが、鍼治療はいつごろ始めればよいですか?

A: ケースにもよりますが、通常はIVFサイクルの開始2~3ヶ月前からが理想的です。

解説:Part 2で記述している体質改善の鍼治療とIVFサイクルのプロトコルにあわせた鍼治療を行っています[1]。できればIVFプロトコルが決まり次第、サイクルシートのコピーをお持ち下さい。

 

Q: 胚移植後も鍼治療を継続したほうがよいでしょうか?

A:  ストレスや不眠などがある場合は鍼治療の継続をお勧めします。

解説:IVFを受けられている患者さんの多くは、胚移植後から約2週間後の妊娠検査まで大きな不安とストレスを抱えて過ごしています。強いストレスや不眠などが続くと着床にも悪影響を及ぼす可能性もありますので、そのような場合は鍼治療の継続をお勧めします。

胚移植後から妊娠検査までの鍼治療は、前述の黄体期後期のリラックス反応を目的としたアプローチを用いています。なお胚移植当日は、自宅にすぐ戻りリラックスして過ごすようお勧めしています。Pacific Wellness でおこなっている心拍変動フィードバックを応用した呼吸法[2, 3]をおこない自律神経を最適な状態に保つよう努めて下さい。

 

Q:  IVFサイクル中、気を付けるべき点等はあるでしょうか?

A:  卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがあります。

解説:IVFで用いられる排卵誘発剤などの薬は様々な副作用を発現させることがあります。IVFクリニックでよく説明を受けてください。

多くの副作用は一時的なものですが卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、稀に重篤な症状になる場合もあり注意が必要です。若い女性およびスリム体型やPCOSの方などはOHSSリスクが高いといわれています。下腹部の張り、息苦しさ、腹痛、腰痛、吐き気、下痢、尿量の減少、急激な体重増加等の症状はOHSSの可能性があるので早急にIVFクリニックへ相談しましょう。

深刻なOHSSまではいかなくても、採卵前卵巣付近が過敏になっていたり腫れぎみになっておられる方は多くおられます。そのような場合の鍼治療は下腹部への刺激は避けて、下肢や腰部の関連領域のツボを多用しアプローチします。

 

Q: 胚移植後は特に日常生活で気を付けるべき点等はあるでしょうか?

A:  激しい運動などは避けたほうがよいです。

解説:胚移植後、特に気を付けるべき点については担当のIVF専門医の先生とご相談ください。

一般的に、胚移植後や妊娠初期は汗をどっぷりとかくような激しい運動やからだの温めすぎは避けたほうがよいといわれています。

ランニング、縄跳び、ウエイトトレーニング等は避けたほうが賢明でしょう。サウナや長時間の熱いお風呂、炎天下での日光浴、また近年はやりのホットヨガや岩盤浴なども胚移植後は禁物です。

また、下にも記しましたが、過剰なストレスホルモンの放出は着床に影響したり子宮を収縮させてしまうことがあります。なるべくリラックスできる環境で過ごしましょう。ストレスや不安を感じた場合はPacific WellnessでおこなっているHRV呼吸法をおこない、ストレス反応からのすみやかな回復を試みてください。

 

Q: ドイツでのIVF研究に使用された鍼プロトコルはどうでしょうか?

A: 当院では用いていません。

解説:2002年4月に、ドイツの研究者Poulusらにより、体外受精(IVF)前後に鍼を受けた女性で成功率が約50%増加したと報告されました[4]。ところがそのあと欧米で立て続けにおこなわれた臨床試験の結果はまちまちでした[5-11]。また、エビデンスレベルが最も高いSystematic Review研究もいくつか行われていますがPoulusらの実験結果を裏付ける結果は得られていません[12-15]。

わたし自身は研究デザイン、配穴その他、当初からすこし懐疑的であったのでドイツ研究で用いられた鍼プロトコルを行ったことはありませんが、最初の研究がセンセーショナルにメディアで報道されたこともあり、いまだに一部鍼灸師には信奉されているようです。

Poulsを含め多くの鍼の臨床試験で行われているのは被験者全員に同じ治療を用いる画一的治療です。それに対し日本や中国で古来よりおこなわれている鍼灸治療は個々の体質を重視した個別治療です。

Pacific Wellnessでは古来より伝承されてきた伝統的治療体系と最新の科学的研究により得られた知見を取り混ぜてそれぞれの患者様に適した鍼治療を行い、よりよい結果となるよう取り組んでおります。

2018年12月更新

ドイツ式鍼プロトコールの最新研究結果が2018年11月、Schwarze JE らにより報告されました。IVF胚移植当日にドイツ式鍼プロトコールを行った過去のRCT(無作為化対照試験)研究を統合しメタアナリシス(システマチックレビューで用いられる統計手法)で検討した結果、鍼治療を受けた患者グループの妊娠率は受けなかったグループより低く、「IVF胚移植当日の鍼治療は推奨されるべきではない」と結論づけられています。注意すべき点はこの研究での結果はドイツ式鍼プロトコールという特殊な治療法を胚移植当日行った場合に限られたものです。ドイツ式鍼プロトコールは伝統的鍼理論や個々の体質等を考慮していない簡易的鍼治療です。また、古来より妊娠時には禁忌とされているツボが胚移植直後の治療で用いられています。

当院でIVFの患者さんに行っている治療法は配穴、刺激方法、施術を行うタイミングなどドイツ式鍼プロトコールとは大きく異なります。伝統的な鍼理論と質の高い基礎、臨床研究に基づいた個別治療です。当院では90年代後半よりトロントの生殖医療クリニックはもとより、米国(コロラド、ニューヨークなど)の有名IVFセンターの患者さんに対し数千例以上の鍼施術を行っております。卵巣機能や子宮内膜の状態の改善等により卵巣刺激ホルモン薬に対する反応や着床率の向上が期待できると考えています。妊娠率が落ちるなどということはありませんのでご安心ください。

Schwarze JE et al.: Does acupuncture the day of embryo transfer affect the clinical pregnancy rate? Systematic review and meta-analysis. JBRA Assist Reprod. 2018 Nov 1;22(4):363-368

Q: 凍結胚移植(Frozen Embryo Transfer) を予定していますが鍼治療をおこなったほうがようですか?

A:  鍼治療で子宮環境をよくしておくことで、着床率の向上が期待できます。

解説:凍結胚移植を予定されている場合は、子宮内膜に重点を置いた鍼治療をおこないます。

鍼治療は子宮血流を促進し、子宮内膜の形成に役立ちます。

 

Q: ドナー卵でのIVF予定しているのですが?

A:  この場合も上記の凍結胚移植と同様、子宮環境をよくしておくことが重要です。

解説:Day3のFSHが高い場合、AMHの低下が示され卵の質に問題があるような場合、または過去のIVFで十分な胚が育たなかったようなケースではドナーエッグIVFを薦められることがあります。健康で若い女性から卵子の提供を受けることで良質な胚が期待できます。しかしいくら胚の質がよくてもレシピアントの子宮の状態が芳しくないとうまく着床せず妊娠には至りません。

子宮内膜血流を促進し、上質な子宮内膜形成を目的とした鍼治療で着床率の向上が期待できます。

Q: 妊娠率向上のほかにIVFサイクル中に鍼治療を受ける利点などはありますか?

A: 鍼治療は、採卵時の疼痛緩和やIVFを受けている患者の生活の質(QOL)の改善に有効であったとする研究が報告されています。

解説:前述のようにPacific Wellnessの不妊はり治療は抗ストレス作用、リラックス効果のある鍼も含まれています。鍼治療は、不安、うつ症状、不眠など精神的ストレスで悪化するさまざまな症状にも効果的です。

精神的ストレスで分泌されるホルモンは子宮を収縮させたり免疫細胞にも影響を及ぼし着床を阻害する要因になることが指摘されています[16, 17]。また、ストレスを抱えている女性はIVFの成功率が下がるという研究結果も報告されています[16, 18]。皮肉なことに、頻繁な検査やホルモン剤の影響等でIVFプロセスそのものが大きなストレスとなっているケースが多いことが確認されています[19-22]。

Pacific Wellnessの不妊鍼治療で惹起されるリラックス反応は特記すべき付加的効果と言えるでしょう。できるだけ心とからだが最善の状態でIVFに臨めるよう治療していきます。

不妊と鍼灸 Q & A

パート 1: 鍼治療は不妊症に効果的なの?

パート 2: 不妊鍼の実際 - どこになぜ鍼をするの?

パート 3: 鍼治療と人工受精(IUI)または体外受精(IVF)など高度生殖医療(ART)の併用について

このよくある質問のオリジナルバージョンは、2002年にacupuncture-treatment.comにアップロードしました。また、2014年アップデート版はacupuncturemoxibustion.comに掲載しました。このQ&Aはオリジナルの英語バージョンを抜粋し日本語で加筆、訂正したものです。

2016年12月

 

文献

  1. Tanaka TH: Fertility Difficulties Treated By Acupuncture: Analysis of 76 Pregnancy Cases. In: The 20th Year Anniversary WFAS International Acupuncture Congress. Beijing, China; 2007.
  2. Tanaka TH: Enhancement of Acupuncture Effects with Auditory Assisted Slow Breathing. In: WHO Congress on Traditional Medicine: 2008; Beijing, China; 2008.
  3. Tanaka TH: Potentiating the Autonomic Effects of Acupuncture by Proactive Use of Respiration. In: ICMART XIII World Congress: 2008; Budapest, Hungary; 2008.
  4. Paulus WE, Zhang M, Strehler E, El-Danasouri I, Sterzik K: Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproduction therapyFertil Steril 2002, 77(4):721-724.
  5. Domar AD, Meshay I, Kelliher J, Alper M, Powers RD: The impact of acupuncture on in vitro fertilization outcomeFertil Steril 2009, 91(3):723-726.
  6. Smith C, Coyle M, Norman RJ: Influence of acupuncture stimulation on pregnancy rates for women undergoing embryo transferFertil Steril 2006, 85(5):1352-1358.
  7. Andersen D, Lossl K, Nyboe Andersen A, Furbringer J, Bach H, Simonsen J, Larsen EC: Acupuncture on the day of embryo transfer: a randomized controlled trial of 635 patientsReproductive biomedicine online 2010, 21(3):366-372.
  8. Benson M, Elkind-Hirsch K, Theall A: Impact of acupuncture before and after embryo transfer on the outcome of in vitro fertilization cycles: A prospective single blind randomized studyFertil Steril 2006, 86:S135.
  9. Moy I, Milad MP, Barnes R, Confino E, Kazer RR, Zhang X: Randomized controlled trial: effects of acupuncture on pregnancy rates in women undergoing in vitro fertilizationFertil Steril 2011, 95(2):583-587.
  10. Paulus WE, Zhang M, Strehler E, Seybold B, Sterzik K: Placebo-controlled trial of acupuncture effects in assisted repoduction therapyHuman Reprod 2003, 18(suppl 1):xviii18.
  11. Craig LB, Rubin LE, Peck JD, Anderson M, Marshall LA, Soules MR: Acupuncture performed before and after embryo transfer: a randomized controlled trialThe Journal of reproductive medicine 2014, 59(5-6):313-320.
  12. El-Toukhy T, Sunkara SK, Khairy M, Dyer R, Khalaf Y, Coomarasamy A: A systematic review and meta-analysis of acupuncture in in vitro fertilisationBJOG : an international journal of obstetrics and gynaecology 2008, 115(10):1203-1213.
  13. Manheimer E, Zhang G, Udoff L, Haramati A, Langenberg P, Berman BM, Bouter LM: Effects of acupuncture on rates of pregnancy and live birth among women undergoing in vitro fertilisation: systematic review and meta-analysisBmj 2008, 336(7643):545-549.
  14. Sunkara SK, Coomarasamy A, Khalaf Y, El-Toukhy T: Acupuncture and in vitro fertilization: updated meta-analysisHum Reprod 2009, 24(8):2047-2048.
  15. Shen C, Wu M, Shu D, Zhao X, Gao Y: The role of acupuncture in in vitro fertilization: a systematic review and meta-analysisGynecologic and obstetric investigation 2015, 79(1):1-12.
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