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心拍数の変動幅が最大となり、呼吸周波数との同調がおきる共鳴リズム

田中秀明

(1)で述べたように人それぞれ心拍の変動幅は異なりますが、呼吸のリズムによっても変動幅に大きな差がでます。下のグラフは、当院で行った実験データの一部です。健康な男性に1分間に12回、6回、3回と3通りのスピードでペーサーに合わせて息をしてもらいました。

Breathing Rate HRV

 

  • 上のグラフ:毎分12回の呼吸をおこなった場合
  • 中央のグラフ:毎分6回の呼吸をおこなった場合
  • 下のグラフ:毎分3回の呼吸をおこなった場合

青が呼吸曲線、赤が心拍数を示しています。まず、1番上のグラフ、呼吸速度が毎分12回の場合、心拍数は小さなな変動を示しています。心拍数の変動は、毎分6回の呼吸(中段)の場合で最大となっています。さらに、呼吸曲線と心拍数の変化が同調しているのがわかります。一番下は毎分3回の場合です。RSAは毎分6回の場合と比べ小さく、また呼吸と心拍リズムの同調もみられません。

心拍数の変動幅が最大となり、呼吸周波数との同調がおきるリズムは、一部研究者のあいだでは共鳴周波数(Resonant Frequency – RF)とも呼ばれていますが、多少個体差があり、毎分約5呼吸でRFが見られる人や約7呼吸で見られる人もいます。しかし、ほとんどの人は、毎分約6呼吸、すなわち1呼吸10秒間のリズムで呼吸することによって、 心拍の変動幅が最大となり、呼吸リズムとも同調します。患者さんの中には、たまに遅い呼吸ほどよいと誤解されている方がおられますが(ヨガや瞑想などの経験者)、心拍変動の観点からは通常よい反応は認められません。トップアスリートも含め延べ何万人という症例を当院でモニターしましたが、毎分4回以下の呼吸数でRFが見られた例は記憶にありません。

 

10秒周期リズムが理想的とされるわけ 

図の中段でみられるように10秒周期(1分間に6回)で呼吸時には心拍数と呼吸曲線の位相関係が0度近くとなり心拍・呼吸リズムのほぼ完全な同期がみられます。データには含まれていませんが、Beat-Beatで瞬時血圧をモニターすると、血圧変動リズムとは180度逆の関係となっています。

近年の応用生理学領域の研究により、この10秒周期リズムは、圧受容体機能を賦活させることがわかっています。圧受容体というのは頚動脈洞と大動脈弓に存在し、血圧と心拍数を体が置かれている環境変化に応じて自動調節する、いわゆるサーモスタットのような役割を果たしており、非常に重要な器官です。また、この10秒周期リズムは自律神経活動を活発化、最適化し、交感神経と副交感神経をスムーズに興奮、抑制させています。

車の運転を例にとり簡単に説明すると、上段と下段の例では、アクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経の機能分担がうまくいっておらず、時にアクセルとブレーキを同時に踏込んでいる状態とも言えます。くりかえしこのようなことがおきると車の多くの部品に負担となり故障の原因となるのと同様、体にとってもストレスがかかりやすい状況になっていると言えます。中段のばあいはアクセルの役の交感神経とブレーキ役の副交感神経を上手に踏み分けて車をスムーズに運転している状態です。

我々の施設(The Pacific Wellness Institute, Toronto, Canada)では、心拍変動を指標とした呼吸トレーニングにより患者自身に自律神経機能を最適化させた状態をつくらせた上で鍼施術を行う試みを10年以上おこなっており、治療成績の大幅な向上につながっていると考えています。

(本稿は、2006年4月に姉妹サイトへへアップロードしたものに日本語で加筆、変更を行ないました。英文版はこちら:http://www.acupuncture-treatment.com/science-of-breath/