特定の速度で律動的に呼吸した場合のみ自律神経系が最適化される
呼吸は誰もが常に無意識に行っています。呼吸は酸素と二酸化炭素の交換という生命活動に欠かせない役割を担っていますが、別の重要な役割もあります。呼吸のやりかたによっては、私達の健康に好影響を与えることが経験的にわかっています。このことは、いわゆる呼吸法が、さまざまな健康法(瞑想、ヨガ、気功など)に取り入れられていることからもうかがえます。
しかしながら、どういう呼吸の仕方が正しいのかということにはまだ十分な科学的な裏づけはありません。例えば、広く実践されている腹式呼吸でさえも実は十分な科学的研究に基くものではなく、伝統的な信念や習慣によるものです。ただし、最近の応用生理学分野での研究において呼吸についての少なくとも一つの重要なことが明らかとなりました。それは、特定の速度で律動的に呼吸した場合において自律神経系が最適化されるということです。全身の循環機能、内蔵機能は自律神経により制御されていますので、健康や病気の改善に大きな影響を及ぼします。
心拍変動リズムと呼吸の関係について
みなさんは、健康な心臓はメトロノームのように絶えず規則正しく鼓動していると思っていませんか?しかし、実際には心臓は一拍ごとに不規則に鼓動しており(図1)、その変動幅、いわゆる心拍変動と呼ばれるものは健康な人ほど大きいことがわかっています(病的な不整脈はまた別です)。逆に心拍数変動は、特定の病気や、長期間のストレスにさらされている方の多くで小さくなっており、さらに、加齢と共に低下する傾向にあります。
心拍変動にもいろいろありますが、特に呼吸に連動して変化する心拍の変動は、呼吸性洞性不整脈(RSA)と呼ばれています。以下に詳述する方法で呼吸を行うとRSAが特に大きくなりますが、これも個人差があります。一般的に高齢者や肥満体質、高血圧症、糖尿病等をお持ちの方は1呼吸で5拍前後しか変化が見られないことが多いのですが、健康な若い方は20拍前後の変化が認められます。トップアスリートでは40拍近く変化することもあります。
(本稿は、2006年4月に姉妹サイトへへアップロードしたものに日本語で加筆、変更を行ないました。英文版はこちら:http://www.acupuncture-treatment.com/science-of-breath/