自律神経トレーニングCD:Calming Massageについて
Calming Massageはリラクセーションを目的とした、いわゆる通常の癒し系CDとは異なります。このアルバムはマッサージ施術等によるリラクセーション効果を増すとともに、特定のリズム呼吸を促し神経の調節機能を高めるようにデザインされています。最新の応用生理学、バイオフィードバック領域の研究と知見に基づいており、適切に用い続けることにより健康上の顕著な効果を期待できます。
心臓の拍動の速さは、常に一定ではなくその時々の状況に応じて変化します。運動時、または精神的な不安、興奮状態にある時は心臓の鼓動は速く、リラックスして安静にしている時は緩やかになります。この正常な心臓の拍動リズムの変化は心拍変動と呼ばれています[1]。心拍変動は、一般的に若く活発で健康な人ほど大きく、長期間のストレス、不健康な生活習慣、加齢を重ねることにより小さくなる傾向があります。心拍変動の減少は心疾患および他の多くの疾患との深い関連性が認められています。また、心拍は呼吸の影響も大きく受け、心臓の拍動は息を吐いている時緩やかになり、吸っているときは速くなります。この呼吸と連動した心拍の正常な変動は、呼吸性不整脈と呼ばれています[2]。バイオフィードバックの専門家はこの呼吸性不整脈をより大きくすることを目標とし、多くの疾患の治療にあたっています[3, 4]。
このアルバムは、リスナーの心拍変動を大きくするため、呼吸のリズムが理想的になるように促す合図が音楽の間に組み込まれています。呼吸は、生きるため常に何気なく行われているものですが、呼吸には単に酸素と炭酸ガスの交換だけでなくもうひとつ大変重要な役割があります。呼吸は私たちの神経のバランスを最適化し、全身の機能を向上させる役割を果たします。ゆっくりとある一定のリズムで息をすると、呼吸性不整脈が増大し、呼吸と心拍のリズムが同調します。このように心臓と肺のリズムが同調し、心拍の変動が増幅されると体にとって大変重要な生理的反射機能(圧受容器反射:血圧を一定に保つメカニズム)が活性化されることが研究により明らかになっています[5, 6]。
単にリラクセーション音楽等を聴きながらゆったりとしていると人の心拍数は下がりますが心拍の変動は通常小さくなっています。Calming Massageは心拍数を下げることではなく(多くの場合平均心拍数の低下は二次的におきてきますが)、心拍の変動幅を大きくすることを主目的としているところがいわゆる癒し系CDと異なる点です。当CDプログラムは、一時的な受動的リラクセーション効果のみではなく、積極的に自律神経(全身の血管や内蔵機能を支配している神経系)の調節機能および順応性を高めることを狙っています。
これまでの研究によりほとんどの人では呼吸を一分間に約6回(0.1Hz)行っているとき 心拍変動が最大になることがわかっています[6]。重要な点は、この呼吸リズム時にみられる心拍変動の拡大は機械的メカニズムによるものであり、とくに深いリラクセーション状態に入っていなくても、このような理想的な心拍変動リズム(コヒーレントリズム)は起きるということです。機械的メカニズムにより心臓が理想的なリズムで拍動を続けていると、自律神経の求心性線維により心臓から脳に送られるシグナルで二次的に精神を鎮める反応が作られると考えられます。それとは逆にいわゆる通常行われているリラクセーションや瞑想においては、まず精神を鎮めようとし、その結果として心拍数や呼吸が緩やかになるという反応が起こります。Neurocardiology領域の研究では私たちの心臓と脳とは相互的にシグナルを送受信する密接な神経ネットワークで結ばれていることがわかっています[7]。このことから、脳と心臓に対して同時に働きかけるアプローチが、最も効果的な短期的および長期的なストレスマネージメント法となりえることがわかります。
Calming Massageはリスナーの精神を注意深く選曲された音楽で癒すと同時に、科学的データを基に組み込まれた合図で積極的に呼吸を緩やかにします。このコンビネーションにより生理的に理想的なコヒーレント心拍リズムを作り出し、より滑らかな心と体のハーモニーを促すことをコンセプトとしました。
Calming Massageの使用方法
文献:
1. Electrophysiology, Task Force of the European Society of Cardiology and the North American Society of Pacing: Heart Rate Variability: Standards of Measurement, Physiological Interpretation, and Clinical Use. Circulation 1996; 93(5): 1043-1065.
2. Yasuma F, Hayano J: Respiratory sinus arrhythmia: why does the heartbeat synchronize with respiratory rhythm? Chest 2004; 125(2): 683-90.
3. Reyes del Paso GA, Godoy J, Vila J: Self-regulation of respiratory sinus arrhythmia. Biofeedback Self Regul 1992; 17(4): 261-75.
4. Tanaka TH: The creation and efficacy of a HRV-Autonomic Trainer CD in assisting heart rate variability biofeedback training: preliminary report. Appl Psychophysiol Biofeedback 2003; 28(4): 326.
5. Bernardi L, Porta C, Spicuzza L, et al.: Slow breathing increases arterial baroreflex sensitivity in patients with chronic heart failure. Circulation 2002; 105(2): 143-5.
6. Lehrer PM, Vaschillo E, Vaschillo B, et al.: Heart rate variability biofeedback increases baroreflex gain and peak expiratory flow. Psychosom Med 2003; 65(5): 796-805.
7. Davis AM, Natelson BH: Brain-heart interactions. The neurocardiology of arrhythmia and sudden cardiac death. Tex Heart Inst J 1993; 20(3): 158-69.